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宇宙飛行士編 第1章 宇宙飛行士を目指すってどうすればいいんだろう?④

『第1章 宇宙飛行士を目指すってどうすればいいんだろう?』の最終回は、宇宙飛行士選抜のおおまかなしくみをみていきます。地球低軌道における民間商業活動が盛んになりつつあり、一般の宇宙旅行者が増えていく最中に、職業宇宙飛行士はどうあるべきか?、国や機関の宇宙開発が月探査さらには火星へとシフトしていく中で求められるものはなにか?過去のJAXA宇宙飛行士選抜がどうだったかのみならず、この先どうなっていくべきかを考えていくためのきっかけをつかんでいきましょう。

宇宙飛行士選抜のしくみ

宇宙飛行士黎明期の選抜方法は、映画「ライト・スタッフ」にもあるように“セレクト・イン”の手法を採用していました。そもそも宇宙飛行士に向いている職業の凄腕を集め、その中からさらに適性をみて選んでいく方法です。具体的には、宇宙飛行士適性に最も近い軍に所属するテストパイロットの中から、基準以上の資質を持つ人物を選び出していくという方法でした。

しかし、宇宙飛行士のバックグラウンドの多様性が進む中で、必ずしも一定の基準だけでずばり適格者を選抜することが難しくなりました。パイロットはオペレーションスキルに長けているでしょうし、技術者はシステムや装置の設計に詳しい、医者は宇宙における身体の変化や身体の異常に対する対処に長けています。それぞれのバックグラウンドが違う集団に対し、一意の合格基準を設定することは、偏りが生じてしまったり、真の適格者を選び出すのに障害となってしまったりしうるからです。

そこで採用されることになったのが、“セレクト・アウト”です。合格ラインではなく、不合格ラインにより、不適格者を除外していく手法です。
「ライト・スタッフ」を正確に見抜くため、より精密な選抜を行うには、ひとりひとりに時間をかけて様々な試験や検査を行う必要があります。そのために序盤で“セレクト・アウト”によりふるいにかけ、人数を絞り、その中から次のステップである”セレクト・イン”を行うわけです。
これまでのJAXAの選抜では、この“セレクト・アウト”の過程で、おおむね50名程度に絞り込んでいます。コストや期間、リソースの関係で、医学検査や各種資質検査に多くの時間をかけて行うことを考えると50名程度とならざるを得ないということでしょう。もっともっと多くの魅力的な個性を持った受験者がいる中で、ふるいをかけなければいけないという状況は、泣く泣くの苦渋の決断であるともいえます。非常に有能な宇宙飛行士人材を、目の荒いふるいによって取りこぼしてしまうリスクがあるからです。しかし、数千人から数名という候補者を限られたリソースの中で選ばなければならないことを考えると、現時点で考えうる方式としては十分妥当なのではないかと思います。就職試験など、適格者を選んで選抜するものは世の中にあまたあると思いますが、これ以上の厳格さをもった選抜を他に知りません。

選抜過程はすべてにおいて客観性が求められています。これは国の機関であるJAXAが「どうしてこの人を選んだのですか?」に対する説明責任を果たすために絶対必要なことです。
選抜項目のすべてにおいて、その評価結果を数値化し、それを集計すると機械的に選抜されるという考えうる限り厳密なプロセスが構築されていると考えた方が良いです。とはいえ、数値化できないものもあるし、評価には必ず主観が入る(絶対に主観を排除しきれない)し、たとえ数値化したとしても、完ぺきではないため総合点数の近い人に対しては点数以外の要素で審査員の中での議論が行われることになると、ぼくは推察しています。ただ、実際には、宇宙飛行士として大成するかどうかなんて神のみぞ知るですし、それをどういう宇宙飛行士がベストかの答えを持っていない人間が評価しようとするわけですから、完璧であるわけがありません。その中で、できうる限りのベストを尽くしていると考えるべきでしょう。

”お見合い”であり、めぐり合わせであり、タイミングであり、個人の努力だけではどうすることもできない要素が多分にある選抜試験であることは、理解しておくべきでしょう。

セレクト・アウト説明図・・・総合点や平均点勝負ではなく、致命的な不適合がないかを調べる

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