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【エバマガ2021-13/20回】宇宙飛行士を本気で目指すきみへ⑤ ~月について知ろう②~

【追記】2023.1.21 エバマガ2021として体裁を整えるレベルの再編集をしました。

~月について知ろう②~
次の有人宇宙探査のステージは月です。
冷戦下でアポロ11号が成し遂げた月面着陸から50年余。当時は月がゴールでした。次に我々がやるべきは、その先につながる技術獲得であり、恒久的な月面基地建設であり、未来の人類の活動領域拡大にダイレクトにリンクしていく持続的な宇宙活動です。
なぜ我々は再び「月」を目指すのか? 
国の有人宇宙活動の主軸が月周辺活動となるのであれば、「月」は未来の職場です。探査時代の宇宙飛行士を目指すなら、自分の中でしっかりと咀嚼しておくべきでしょう。月のことはよく知っておくべきですし、どれだけの可能性を秘めた国際プロジェクトであるか、その魅力を伝える使命があります。
今回は、再び『月』について掘り下げる2回目です。

「月」の持つ可能性

いま最もホットな話題は、「月に水(氷)がどれくらいあるか?」です。

世界が再び「月」を目指している理由として、

① 月や地球の起源に迫る科学探査
② 火星以遠への人類進出に向けて様々な技術実証の場
③ 月面資源開発

の3つを挙げましたが、その中でも、今後この「月」ブームが産業界にまで広がり大きなムーブメントになるかどうかのカギを握るのは、③の月面資源開発だと思います。

月面基地で、その活動に必要なエネルギーが賄えることになれば、「地産地消」(ならぬ「月産月消」でしょうか)サイクルが成立することとなり、地球から物資を輸送/補給しなくても「月」ベースの活動を行うことができます。大量の氷が存在することになれば、液体にして植物の育成に利用したり、水素と酸素に分解することで、呼吸用の酸素やロケットの燃料とすることができます。月は地球の8番目の大陸になるかもしれません。

では、どのくらいの水(氷)が月には存在するのでしょうか?
月面の大部分では、水は大気のない月の表面にはとどまっていることはできず、水蒸気となり日光により分解され、宇宙空間へ拡散してしまいます。なので、月の鉱物と結合して存在できる水酸基(-OH)として存在するか、月の極域付近の永久陰クレーターの中など、太陽光が当たらない場所に氷として存在すると考えられており、その総量は諸説あるという状況です。

日本の月探査機「かぐや」は、ガンマ線分光測定により月表面の様々な元素の存在量を計測しましたが、月の南極付近の永久陰のクレーターに氷の兆候を発見することはありませんでした。
インドの探査機「チャンドラヤーン1号」やNASAの「ルナ―・リコネサンス・オービター(LRO)」では、土壌と結合した形で月表面に水酸基(-OH)を観測し、氷の結晶についても存在が確認されたとしています。

そのお隣の地球には、非常に豊富な水が存在しています。
「月」へも同じように、彗星やその他の天体に乗って、水がやってきていてもまったく不思議ではありません。それが、太陽光の差し込む月表面では残されないものの、極域の永久陰では捕らわれて、地下に氷として堆積しているということは十分ありうると思います。

あとは、どのくらいの量存在するのか?
それによって、今後月面での経済活動が大きく広がっていくかどうかが変わってくると思います。

ここで、ひとつ、面白い日本の月探査ミッションを紹介しましょう。

月極域探査ミッションLUPEX (Lunar Polar Exploration mission)です。
月の水資源が将来の持続的な宇宙探査活動に利用可能かを判断するために、水の量と質に関するデータ取得を目的とした、JAXAとインド宇宙機関(ISRO)との協働ミッションとなります。

note記事5-6月号_月_LUPEX1
note記事5-6月号_月_LUPEX2
LUPEXミッション概要図  (c) JAXA


月の南極域にある永久陰の近くに着陸し、ローバを展開、事前に選定した水分布の可能性がある領域を探索します。地下1.5mまでを観測し、水素が検出された場所を掘削・試料採取を行い、加熱して揮発性物質をガス化、化学種同定、水量分析を行います。
将来の月面活動に必要となる重力天体表面探査技術である「移動」「越夜」「掘削」技術の獲得も目指すというミッションになります。
2024年に計画されているこの月極域探査ミッション、将来の月面活動が活発化するかどうかを見極める分岐点となりそうです。

JAXAの紹介動画はこちら(15分)


もうひとつ、月探査機「かぐや」が発見した「縦孔」(溶岩チューブ)について触れておきましょう。

月表面の環境は過酷です。
大気がないため、小さな隕石の直撃を数多く受けますし、マイナス150C以下の極寒の夜(14日間)と100Cを超える灼熱の昼(14日間)が繰り返されます。さらに、放射線が絶え間なく降り注ぎます。1回の太陽フレアで人間の致死量に相当する放射線が月面にもたらされることもあります。
そういった過酷な環境を大きく和らげてくれるかもしれないのが「月の縦孔」なのです。

月がまだマグマオーシャンで覆われていた時代、火山活動で発生した溶岩が地面を流れていくと、次第に表面が冷えて固まります。表面が固まってもなお、その下をまだ溶岩が流れていくことがあります。そして火山活動が終わると、中を流れた溶岩が抜けきって、固まった表面を天井とした空洞ができます。これが溶岩チューブといわれるものです。そして、その上に隕石がぶつかるなどして天井部分が崩落、その結果現れたものが「月の縦孔」(天窓ともいわれる)だと考えられています。

つまり、「月の縦孔」は、巨大な地下空洞につながっています。
空洞の天井が天然の防護壁となり、隕石や放射線から人類や機器を守ってくれます。
また、縦孔の底の永久陰の温度変化は、夜間で-20C、昼まで30C程度と非常にマイルドな温度環境であることが分かっています。

月面に物資を輸送するのは非常に大変です。輸送費は約1億円/kgです。
人類が月面に拠点を構築する場合の、最初の“ほら穴”がこの天然の「月の縦孔」となる可能性は高いと思います。

月の縦孔をもっとマニアックに知りたい方はこちらのUZUME Projectへ吸い込まれてみてください(笑)

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